「ワールドエンドヒーローズ」の偉大なる実験

 2020年8月20日、ソシャゲ『ワールドエンドヒーローズ』がサービスを終了する。

 

f:id:san001:20190520000429p:plain

 あなたがこの記事を読んでいる今日は、8月16日だろうか、17日だろうか、もっと先だろうか。それとも8月20日を過ぎているだろうか。

 もしもあなたがワールドエンドヒーローズを遊んだことが無いというなら、今からでも遅くない、ぜひアプリをダウンロードしてみて欲しい。このゲームは8月20日でサービス終了となるものの、ストーリーはその後もオフライン版で読むことができるからだ。

 

 このゲームでは、プレイヤーは地球を襲う敵である「イーター」と戦うため、15人の高校生ヒーローたちを導き見守る「指揮官」となる。

 15人はそれぞれが別の信念を持って戦っている。

 「愛すべきこの美しい世界を守る」と輝く理想を宣言してのける者もいれば、「底辺のクズを守る」ためにとんでもない戦いをする底辺の少年もいる。

 「死んでも自分の好きなように生きる」なんていう余命持ちの戦闘狂もいれば、「平穏な日常が送りたい」のに未来視なんてトンデモ能力を持ってしまった子もいる。

 「ヒーローはかっこよく」と拘るハッピーエンドとヒーローを心から愛する悪魔、もといヒーローもいる。

 少年たちの想いが触れ合いぶつかり合い、群像劇のように描かれ、紡がれていく。それがワールドエンドヒーローズという物語だ。

 

 この物語は、記憶喪失のヒーローである透野光希が、ただのモブの少年を助けるところから始まる。モブの少年―――主人公である三津木慎は、これをきっかけに、天才技師にしてヒーローである浅桐真大に見出されてヒーローとなる。

 

f:id:san001:20200816193311p:plain

左が透野光希、右が三津木慎。

f:id:san001:20200816193351p:plain

記念すべきヒーローとなる瞬間。

 

 ヒーローとして成長するうちに、「ヒーローたちを守るヒーローになりたい」という信念を抱いた三津木は、やがてこの地球を救う戦いに身を投じていくことになる。

 ヒーローたちと敵対する謎の青年、七見薔明。彼が率いる異形の者たち。地球とヒーローたちを取り巻く謎。正義とは何か。運命とは何か。

 果たして彼らの選択の先にあるものは?

 指揮官は一体何を目撃するのか―――。

 

 少しでも興味を持ったなら、ぜひダウンロードして物語を見届けて欲しい。

 この物語は「あなた」が見届けることに意味がある。

 

 さて、ここから先はメインストーリー完結で私が感じたことについて触れていきたい。

 核心には触れないようにするが、これからプレイする予定の方で、少しでもネタバレを見たくない方は注意して欲しい。

 また、全て私の個人的な考察風妄想であり、公式見解ではないことをご理解いただきたい。

 

 ネタバレのない公式からのお話として、2020年7月31日の超!アニメディアに制作スタッフ様のインタビューが掲載されている。

 

 作品への強い愛が伝わってくる内容なので、弊ブログは後回しにして是非読んで欲しい。





 さて、ワールドエンドヒーローズ(以下ワヒロ)は先日メインストーリーが完結し、14日には最後のサイドストーリー及びエピローグが更新された。

 全てのヒーローたちの選択が繋がった先のハッピーエンド

 本当に素晴らしい物語だった。何度だって賛辞を送りたい。

 この物語とヒーローたちが大好きだという感想については、またいずれ時間がある時に全力で叫びたいと思う。

 

 さて、完結までを自分の中で読み解いた後、私はあることを考えた。

 ワヒロはソシャゲを舞台とした壮大な実験だったのではないか。

 ソシャゲという媒体の特性を活かす仕掛けが幾重にも施され、ストーリーにまで組み込まれた、新しい試みだったのではないか、と。

 いや、実験と言うと失礼に当たるかもしれない。とにかく私は、ソシャゲを使ってこんな仕掛けを実現させた計算に感動した。こんなにも面白い仕掛けを作っていた人たちがいた。ワヒロはワクワクするエンターテイメントだった。

 そのことを残したくて、伝えたくて、私は今この記事を書いている。私の感じた高揚感や喜びが少しでも伝わってくれたら幸いだ。



 プレイヤーたちの間で、ワヒロはソシャゲという媒体を上手く使っていることは以前からよく指摘されており、私もそう感じていた。

 そのことについて詳しく言及する前に、そもそもソシャゲという媒体が持つ特性とはどんなものかを上げていく。ソシャゲと買い切り型ゲームの具体的な違いとは何か。

 今回は大きく3つに分けて説明することとする。

 

1.ストーリーの配信方法

2.ゲームの選択肢

3.ゲームへの接し方

 

 これらについて考えながら、ワヒロがどのようにソシャゲの特性を活かしていたのかを説明していきたい。

 なお、以下ではソシャゲではないゲームを買い切り方と称して比較していくが、それぞれの特性が異なることに言及しているだけであり、どちらかの手法が正解という話ではないことはご留意いただきたい。





1.ストーリーの配信方法

 

 買い切り方のゲームは(DLコンテンツや続編前提で出すものもあるが)基本的にはストーリーの配信は一度で終わりだ。買った中に全てのストーリーが内包されている。

 一方でソシャゲは(こちらも例外はあるだろうが)ストーリーは分割して少しずつ更新されていく。ストーリーの完結は未定だ。ソシャゲの配信は従来のゲームよりも週刊誌や月刊誌などに近い。

 これによって何が違ってくるのか。

 

 まず、ソシャゲは配信完了までの期間が長い。ストーリー完結や区切りのいいところまで読み進めるには年単位で遊ぶことになる。これによりゲームへの時間の掛け方、ゲームの遊び方が大きく異なってくることになるのだが、それについては「3.ゲームへの接し方」で詳しく記したい。

 次に、メインストーリー更新までの期間が開くため、その間はユーザーを離れさせないよう、多くのソシャゲではイベントやサブストーリーが配信される。これによってキャラクターや世界観の掘り下げがされるわけだ。

 買い切り方ゲームでも、DLコンテンツやスピンオフ作品での掘り下げはよくある。しかしそれはストーリーを完読した前提であり、メインストーリーが配信中に読むのとではやはりユーザーの心境は異なってくる。

 そして、リアルタイムでプレイヤーが情報を共有しやすい

 買い切り方のゲームはストーリーが長いため、どうしてもプレイヤーによって読み切るまでの時間が異なってしまう。難易度が高かったり選択肢の多いゲームであればなおのことだ。

 ソシャゲの場合、プレイヤーは横並びでストーリーを追うことが前提となっている。多くは配信当日から数日のうちに読み終えて感想等を呟く。流れてくるネタバレが怖いからさっさと読み終えるという人も多いだろう。これによりファン同士での感想や情報の共有がしやすい。更に公式SNSからもリアルタイムで情報を受け取ることができる。

 

 ワヒロではメインストーリーが毎月月末に更新され、ファンの間では「月刊ワヒロ」と呼ばれていた。他にも、月2回のイベントでイベントストーリーが、月末限定カードでカードストーリー(※1)が更新されていた。また、メインストーリー終盤では、各キャラの掘り下げであるサイドストーリーが更新された。(※2)

 そして毎日夜8時に、公式Twitterが何かしらの情報を発信していた。更新情報からイベントの裏話まで様々な情報を発信してくれたため、ファンはこのお知らせを「時報」と呼び、夜8時を心待ちにしていた。(※3)

 ワヒロはこれらの更新の連携が非常に上手かった。

(※1:引いたカードの信頼度を上げることでストーリーを読むことができた。また、イベントにもカードストーリーがあるが、この記事ではイベントストーリーとしてまとめて扱う)

(※2:これ以外にもストーリーはあるが、メインストーリーとは連動していないため今回は言及しない)

(※3:夜8時以外にもお知らせが来る時もあった)

 

 メインストーリーが月末に定期更新され始めたのは2019年3月からなのだが、その前の3月前半に霧谷柊というヒーローのイベントがあった。霧谷は佐海良輔「伊勢崎」敬と共に養護施設で兄弟のように育ったのだが、イーターの襲撃により施設が壊滅し、姉代わりの女性が植物状態になってしまった過去がある。そんな彼が、立て直された養護施設で子供たちのために頑張ったイベントだった。

 そんなイベント後、3月末にメインストーリー38~41話が更新されたのだが、そこでまさに霧谷と佐海と伊勢崎の三人が口論をする。伊勢崎敬は二人の兄貴分で元は「春間」という苗字だったが、施設襲撃の元凶である一族に何故か養子入りし「伊勢崎」と苗字を変えていたのだ。佐海が裏切者の伊勢崎への怒りをあらわにする中、霧谷は冷静に、ただ大切な施設を守る決意を口にする。イベントで彼の子供たちへの優しさを見てからの台詞は大変胸を締め付けられた。

f:id:san001:20200816193515p:plain

 そしてその翌月の4月後半、今度はなんと佐海のイベントが行われた。かつて施設があった地域でのイースター祭を手伝うというイベントだが、色々あって佐海は窮地に追い込まれてしまう。しかし彼はかつての施設襲撃で「弱い人々を守る」という気持ちからヒーローになっており、そのために手に入れた能力、そして決意によって窮地を打開する。

 そして霧谷佐海、どちらのイベントでも、伊勢崎が今でも二人を大切に想っている様子が描かれている(しかし霧谷と佐海はそのことを知らない)

 このように上手くメインストーリーとイベントストーリーを使い、ワヒロは彼ら三人の決意や関係性をユーザーに刻みつけた。

 

 

 そんな霧谷たち三人の関係性を描く一方で、他のキャラの描写もしっかり行われていた。

 メインストーリーの4月末更新分である42話では「運命」の存在について主人公の三津木たちが考察していくのだが、その流れで矢後勇成久森晃人の二人がクローズアップされる。矢後はすっと前に病気で余命宣告をされ、しかも謎の事故に頻繁に遭遇しながらも何故か生き続けている。そして彼の後輩である久森には未来を見る能力があり、矢後が自分の未来を変えながら生き続けていることを知っている。

 この少し前の3月後半には矢後のイベントストーリーが、4月月末には久森のカードストーリーが追加され、余命宣告や未来視能力によって彼らがどんな過去を過ごしてきたのかが描かれていた。この過去の描写によって、メインストーリーで「今」を生きている彼らの姿がより奇跡的に感じられ、運命の存在について読んでいる方も考えずにはいられなかった。

f:id:san001:20200816193556p:plain

 

 そして同じく4月末更新のメインストーリー43話では、三津木透野は自分たちの望みを語り合う。記憶喪失の透野は過去を取り戻したいと、ずっと空気のような存在だった三津木は生きた証を残したいと願い、これから二人で頑張っていくことを誓う。そんな話の後、5月前半には三津木のイベントがあり、彼の持つ才能を見ることができる。

f:id:san001:20200816193623p:plain

 

 更に3月月末カードストだった御鷹寿史5月後半にイベントが来るのだが、このあたりのイベント、4月斎樹佐海5月三津木御鷹6月佐海戸上……のお話は、連作ではないが似たテーマが感じられる。この順番で読むことで彼らの持つ才能や特性の対比が際立つうえ、「ヒーロー」という存在について考えさせられる内容になっているのだ。

 そして更に更に、ワヒロでは15人の高校生たちの他に、ヒーローについて考えるには欠かせない存在がいる。星乃慧吾という、中学生で亡くなったヒーロー候補生だ。本来であればヒーローたちを率いるリーダーになっていた彼が何故亡くなったのか。その真相の一部が4月更新の44話で明かされ、6月後半に彼の友人だった戸上宗一郎のイベントで大きく扱われている。作中でも屈指のシリアスイベントだ。

 

 思い出しながら振り返ってみたわけだが、本当にすごい密度だと思う。

 それぞれのストーリーを単品で読んでも勿論面白い。しかしワヒロではこのようにストーリー同士が連携することで、プレイヤーにより強いインパクトを与え続けていた。

 

 他に、公式はTwitterでもリアルタイムでワヒロを盛り上げていた。

 メインストーリーやイベントの更新予告では、キャラクターの一部や台詞を切り取る。TwitterのTLは誰がメインでどんなお話になるのか毎回大盛り上がりだった。

 特に2018年12月26日のメインストーリー31~37話更新に際して、公式はTwitterひとつの仕掛けを施した。このツイートだ。

 この二人の画像のどこが衝撃的なのかは、メインストーリーの31~37話を読めばわかる。2018年当時、そんなことする!?とびっくりした記憶は鮮明だ。

 しかもなんとこの画像は、それから一年半を経た2020年8月7日、プレイヤーに再び衝撃を与えることになる。これについては、8月更新分メインストーリーの110~113話を読めばわかるとしか言えないので、とにかく試しにそこまで読んでみて欲しい。

 他にも、イベントごとに披露されるマメ知識は、ヒーローたちはオバケを信じるか信じないか、金魚を何匹すくえたか、というような愉快なものが多く、プレイヤーたちのイベント体験を更に思い出深く楽しいものにしてくれた。

 

 しかもワヒロのすごいところは、これだけのことをやりながらも、ほぼ毎月15人全員のカードが実装され、イベント周期や月末カードも偏らず、15人全員が公平に扱われていたところだ。月末更新されるメインストーリー4話分にも、イベントストーリー11話分にも、ほぼ毎回15人全員の出番があった。

 どんな企画力と構成力があればこんなことが出来るのだろうか。陳腐な褒め方になってしまうが、天才としか思えない。

 

 熱が入って大分長くなってしまったが、話を戻そう。

 とにかくワヒロがリアルタイムというソシャゲの特性を上手く利用していたことは伝わっただろうか。

 

 ところでユーザー側の話になるのだが、ワヒロはファンの感想や考察ツイートがとても活発だった。萌えを語りたいとか世界の謎への言及とか、理由は人によって様々だったと思うが、私が他の人のツイートをよく見に行っていたのは、他の人から見たワヒロのストーリーを知りたかったからだ。

 ワヒロはストーリー自体は長すぎず短すぎず、とても読みやすく楽しめる。しかし細部を読み解くと、前述の通りイベントからの流れが引き継がれている部分や、キャラクターや関係性の対比などが多く盛り込まれていたりする。

 そんなストーリーの仕掛けについて、気付いた時には全力で語って多くの人に知って欲しいと思ったし、逆に私が気付いていない仕掛けを全部知りたかった。たくさんの人の視点からワヒロが見たかった。きっと私のような人も多かったのではないかと思う。

 そこまでもワヒロ公式の計算だったのかはわからないが、とにかくリアルタイムで語り合うことで、プレイヤーたちの熱が更に高まっていたことは間違いない。

 

 1項目が大変長くなってしまったが、次はゲームの選択肢について語りたい。




2.ゲームの選択肢

 

 買い切り方のゲームの多くでは、プレイヤーの選択で結末が変わる。いわゆるマルチエンドだ。エンディング部分だけでなく、ストーリーの主要部分さえ多彩に変化するゲームもある。

 アドベンチャーゲームタイプのソシャゲにおいて、ストーリーの自由度は皆無であると言って良いだろう。ソシャゲは数多のプレイヤーが読む連載作品だ。選択肢ごとに配信内容を変えることは難しいし、仮にできてもライターの仕事量やデータ量を考えれば限度があるだろう。

 作中でかっこいいことを言おうが、ヘタレたことを言おうが、なんやかんやでその後の流れは同じになり、敵を倒して話は続いていく。選択肢が有用なのはストーリーとしてではなく、好きなキャラの異なるリアクションが見られるかもしれない点などだろう。

 ソシャゲの選択肢は作中要素としてあまり意味がない。

 

 選択肢に意味がないことはワヒロでも同じだ。どれを選んでもストーリーは変わらない。

 しかしこの「選択肢に意味がない」ことに実は意味がある。

 ワヒロには「運命」と「血性」という設定が存在する。この地球の運命を変えられるのは血性を持つヒーローたちだけだ。

 そしてプレイヤーは指揮官である。運命を変えることができない。だからストーリーに影響を及ぼせないのは道理だ。

 これは一見がっかりする要素に思えるかもしれない。しかし、プレイヤーの選択ではなく、ヒーローたちは自分たちで選択して自分たちの運命を変えていくことができる。その事実が後々、ストーリーでとても大きな意味を持ってくるのだ。

 

 ワールドエンドヒーローズは常に選択の物語だ。

 ワヒロでは作中、指揮官の普通の台詞枠での発言が一切存在しない。発言は常に「選択肢」の形で表示される。指揮官の一挙一動もまた選択だということだろう。

 運命は変えられないが、選択することで指揮官がひとつだけできることがある。物語を読み進めること。ヒーローたちの活躍を見守り続け、記憶し続けることだ。

 それにどんな意味があるのかは、記事の最後で少しだけ語りたい。




3.ゲームへの接し方

 

 最後に、ゲームへの接し方についてだ。

 買い切り方のゲームとソシャゲは、そもそも遊び方が大きく異なっている。

 買い切り方はクリアまでの期間を楽しむ作り方がされている。あくまでも主軸となるゲームを遊びつつ、アイテム集めやサブイベントなど、わき道で小休憩もできる作りだ。どれだけサブイベが豊富でもおそらく数ヶ月以内で終わるだろう。

 一方でソシャゲは前述の通り、配信完了までの期間が長い。その期間プレイヤーは、毎日や数日おき、もしくは数ヶ月置きにゲームに触れることになる。各ソシャゲもログインボーナスやデイリーミッションでユーザーを離れさせないよう努めている。

 するとどうなるか。ゲームが日常の一部になっていくのだ。

 毎日ゲームに触れ、ゲームを操作し、ゲームのキャラクターを見る。次第に愛着が育っていく。このような習慣化こそ、ソシャゲが想定している遊び方だろう。

 

 ワヒロはとにかく毎日気楽にログインして遊んでもらえることを目指して設計されていたのだと思う。

 何せデイリーミッションが1日3分で終わるのだ。訓練1回で20秒、合宿施設で20秒、ガシャで20秒、ミッションで2分足らず。たったの3分。朝ご飯のパンを焼いている間に終わる。私のワヒロの好きなところのひとつだ。

 レベル上げやアイテム集めも無理にしなくていい。とにかく好きな時にポチポチすれば、キャラクターの信頼度が上がって面白いストーリーが読める。そんな気軽さがあった。

 ゲーム内容がシンプルなのも、アイテムが少なく武器や装備が無いのも、面倒くさがりの私としてはありがたかった。好きな時に好きなだけ遊ぶことが許されている気がして、逆にキャラをつついたりストーリーを読み返したりカードを眺めたりしてゲームに長居した。あくまでも私の場合なので、そこまで公式で想定されていたのかはわからないが、とにかく毎日ログインするのが気楽で居心地が良かったのは間違いない。

 そうやって毎日ログインする習慣がついた結果、私は彼らを「見守っている」という感覚が強くなっていった

 ログイン時やホーム画面でヒーローたちに挨拶される。合宿施設に行けば3Dのヒーローたちが日常を過ごしているし、アクティブログで高校生たちののんびりした様子が垣間見れる。ミッションに彼らを送り出しては活躍を見守り笑顔になり、戦う彼らの雄姿にテンションが上がる。

 そして配信される彼らの物語を読み、見守る。それが日常の一部だった。

 毎日習慣化することで、「彼らを見守る指揮官」というプレイヤーの役割に没入することができた。できるようにワヒロは設計されていたのだ。

 ここから下で私が記す要素が無くても、これだけでワヒロのゲーム体験としての造りは良いものだったことは言い切っておきたい。





 さて、ここからは少しだけネタバレが入る。

 

 あなたはメタフィクションという言葉を知っているだろうか。こんな記事を見ている人には説明不要かもしれないが、あえて説明すると、フィクションをフィクションとして扱う手法のことだ。略してメタとも呼ばれる。

 

 ワヒロにはメタ的な要素がある。おそらく。たぶん。

 おそらくというのは、作中ではっきりとそのことが明言されていないからだ。

 完結まで物語を読み切ると、作中の「指揮官」=「画面の前のプレイヤー」というメタ要素が組み込まれているのではないか、と考える余地がある。

 ただし余地があるだけなので、メタではないと考えるプレイヤーもいて当然だ。そのあたりは自由な解釈ができるようになっているのだと思う。

 

 メインストーリー終盤、とある場面で、指揮官はメタ要素の選択肢を選ぶことができる(それをメタ要素と捉えるかどうかもプレイヤー次第なのだが)

 その選択肢は、ある人の声をあなたが「覚えている」か「覚えていないか」だ。

 選択肢の項で記した通り、どちらを選んでもストーリーには影響がない。作中の世界は一切変わらない。

 ゲームへの影響は物語を読み進めること。変わるのはひとつ、選んだプレイヤーの心境だけだ。

 私は「覚えている」を選んだ。作中の指揮官は覚えているはずがないことだった。

 このメタ的選択肢を選んだ時、私はようやく指揮官がいた意味に気付かされた。

 ゲームをダウンロードし、毎日ログインして彼らと会い、ストーリーを読み、選択肢を選んで読み進め、ヒーローたちの物語を知っていく。そして彼らをずっと覚えている。

 そんなソシャゲの遊び方そのものが、ストーリーの「役割」として組み込まれていたことに気付いたのだ。

 

 ワールドエンドヒーローズは、ソシャゲの特性を全部使ってありとあらゆる仕掛けを施し、見事に作り上げられた最高の舞台だった。なんという意欲作で実験作だろう。

 はっきりと断言してしまおう。

 これはソーシャルゲームの新しい試みであり、歴史に残る偉大なる実験だった。

 そのことを私はずっと語り継ぎたいし、多くの人に知って欲しい。こんなにもワクワクさせてくれた作品があったことを。いや、今もあり続けることを、あなたにも知って欲しかった。




 指揮官の役割、選択肢の意味。まだまだ熱弁したい仕掛けは山ほどあれど、作品の核心に触れてしまうため、これ以上の言及は避けるしかないのが口惜しい。

 しかしネタバレもしたくない。これだけはぜひともあなた自身の目で確かめて欲しい最初からゲームを追っていたわけではない、あなたの目に映るワヒロも私は見てみたい。

 



 もう一度言う。

 少しでも興味を持ったなら、ぜひダウンロードして物語を見届けて欲しい。

 この物語は「あなた」が見届けることに意味がある。

 

ワールドエンドヒーローズ
ワールドエンドヒーローズ
開発元:SQUARE ENIX INC
無料
posted withアプリーチ

 

 

 

 最後に。

 ワールドエンドヒーローズ、いつまでも大好きです。

f:id:san001:20181203023058p:plain